施設と、あの子のこと
2018-04-10
十二歳まで、
施設で暮らしていた。
引き取られたあとも、
何度か、顔を出していた。
特別な用事が
あったわけではない。
ただ、
あそこに行くと、
気持ちが少しだけ
落ち着いた。
ある日、
図書室で、
本を読んでいる子を見かけた。
小さな机に向かって、
ずいぶん真剣な顔をしていた。
年は、
たぶん十歳くらい。
声をかけるつもりは、
なかった。
自分から話しかけるのは、
昔から、
あまり得意じゃない。
それでも、
気づいたら、
口に出していた。
「それ、面白い?」
言ったあとで、
少しだけ、
懐かしい気持ちになった。
その子は、
一瞬だけ戸惑った顔をして、
それから、
黙ったまま、
読んでいた本を
こちらに差し出した。
その仕草を見た瞬間、
思い出した。
昔、
自分が、
まったく同じことを
していたことを。
答えられなくて、
代わりに、
本を渡した。
あのときと、
同じだった。
それに気づいて、
思わず、
少しだけ、
笑ってしまった。
その子は、
理由が分からない、
という顔をしていたが、
特に何も聞かなかった。
それで、
よかった気がした。
話してみると、
好きな本の種類も
よく似ていた。
どこが好きか、
という話になると、
二人とも、
うまく説明できなくて、
しばらく黙ってしまった。
でも、
その沈黙は、
居心地が悪くなかった。
帰る時間になって、
立ち上がろうとすると、
その子が、
こちらを見て、
「また来る?」
と聞いてきた。
すぐには答えられなくて、
少し考えてから、
「たぶん」
とだけ言った。
また行こう。そう思った